地中海のマンボウ

 今回は初めての海外特集です。マンボウは世界中の熱帯・温帯に生息しているので、当然、日本以外の海にも出現します。インターネットで調べればあらゆる海でマンボウが出現していることが分るでしょう。今回は日本から遠く離れた地中海でのマンボウをご紹介致します。日本周辺に出現するマンボウと比べながら見てみましょう。


(※・・・このページに出てくる考察は、あくまで私の勝手な推測によるものです。事実と異なる文章があった場合でも責任は負いませんのでご了承下さい。)
(※・・・以下の写真(ウィキペディア・岩手県のマンボウ以外)は全てKubicek氏の好意によって寄贈されたものです。Kubicek氏には心よりお礼を申し上げます。)
(※・・・そして全ての写真の無断転写・無断使用を禁じます。)
 さて、最初にこのページを作成するにあたってその経緯をご紹介致します。今回の情報・写真は私が現地に赴いて集めたものではありません。2009年某月、このサイトに1通のe-mailが届きました。送り主は地中海でマンボウの研究をしている学者さん(Kubicek氏)からで、ネットでマンボウの情報を集めている時にたまたまこのサイトに辿り着いたそうです。それから約半年間、メールでマンボウ情報のやりとりをしている中で仲良くなり、写真等の情報交換をしました。今回は許可を頂きまして、その写真と情報をこのページに掲載したいと思います。それではお楽しみください!

前述に地中海のマンボウをご紹介する、と書きましたが詳しくはジブラルタル海峡のマンボウということになります。ジブラルタル海峡とは一体何処なのでしょう?
ジブラルタル海峡とは地中海の入り口(イベリア半島とアフリカの北端の間)の海峡のことを言います。ウィキペディアによると水深は286m、海峡の幅は14〜44キロ、長さは60キロに及ぶそうです。
 
余談ですが、ジブラルタルとはイギリスの領地なのですね。スペインと接しているので、てっきりスペインの領地だと勘違いしていました・・・。

。。


宇宙から見るジブラルタル海峡
(ウィキペディアより・パブリックドメイン)
今回、マンボウを漁獲したポイント

この場所にも定置網があるようで、マンボウがたくさん獲れるそうです。それもそのはず、地中海の入り口はここしかないので地中海に現れるマンボウ(地中海に居つきのマンボウがいない限り)はこの海峡を通らなければ絶対に入れないのです。以前、トルコで獲れた巨大マンボウをご紹介しましたが、そのマンボウもこの海峡から入ったのだと思います。それではジブラルタルでの定置網の様子をご覧頂きましょう。

日本の定置網漁と同じように複数の船で中央の袋網を手繰り寄せていく方法ですね。最初にこの定置網を発明した人はすごいです。
さぁ、網を手繰り寄せると魚の姿が・・・。
おお!この形・この鰭(ヒレ)は間違いなくマンボウ!!しかもかなりの数。

この写真(下の写真)は網の中のマンボウではないと思いますが、この海域で撮影されたマンボウだと思います。

さて、漁は続きます。両側から網を手繰ると、中央に魚が集まってきて、漁師さんが網の中へ入ります。そして網の中で魚をすくうと・・・

マンボウ獲れました!

 私が大学時代に確認した日本で漁獲されるマンボウの平均は70cm〜100cmくらいの大きさですが、この海域のマンボウは小さめですね。
(※・・・最近の情報では、東北で晩夏から秋にかけて50cm以下のマンボウが多く出現するそうです。)
体にはシワが多く、少し痩せ気味、背鰭(セビレ)の先端は少し欠けています。舵鰭(カジビレ)に起伏はなく、これまで見てきたマンボウをそのまま小型にしたような形をしています。
大体同じサイズのマンボウで比較してみましょう。
左がジブラルタル海峡のマンボウ、右が岩手県で獲れた小型マンボウ(30〜40cm)です。
この違いをどう見るか。
パッと見る限り、私の意見ですが、口元から尻鰭(シリビレ)にかけての形が若干違うように見て取れます。詳しく説明すると、ジブラルタル海峡のマンボウはスマートですが、岩手県のマンボウは膨らんでいるような気がします。そして、鰭、背中の色ですが岩手県のマンボウの方が濃く黒っぽくいですね。全体的な体の色は光の加減を考えると、どちらもが銀色掛かっているような気がします。

ジブラルタル海峡のマンボウ

右が岩手県で獲れたマンボウ
ただ・・・この岩手県の小型マンボウは、写真をいただいた方から頂いた情報だとこのサイズは1枚しか獲れていなく、日本で獲れる平均的なマンボウの小型サイズかどうかは不明とのこと。簡単に言うと、この岩手県のマンボウが特殊かもしれないということです。「だったら比較するな」と言われそうですが、せっかく日本と地中海の小型マンボウの写真があるので比較してみました。また日本の小型マンボウの写真が手に入り次第、また比較してみます。
それでは大型マンボウどうなのでしょうか?続けてみてみましょう。

マンボウだけを集める研究者たち。特設プールの中はマンボウだらけ。

ュモクザメ(通称:ハンマーヘッド)、タイの仲間?、そしてサワラかな?
さて網か日にちが変わりまして、別の写真へ。
これは・・・

マンボウ天国!?

なんというマンボウの数。

定置網の中はマンボウでいっぱい。

パッと見ただけでも100枚近くはいるのではないでしょうか。

大小様々なサイズのマンボウが入り乱れる。

特に巨大なマンボウは選り分ける作業が大変。下の写真のように数人がかりで持ち上げるのですが、足場が悪いのでかなり大変だったことでしょう。

船に揚げられたマンボウを見てみましょう。
このマンボウ、体の色が全体的に黒っぽい。果たしてこのマンボウは今までのマンボウ
とは違った別種のマンボウなのでしょうか?
いや、これは別種のマンボウであるとは言えません。
それでは単なる個体差?
どうやらそうでもないようです。次の写真を見てみましょう。
下の二枚の写真のマンボウは同じ固体番号71番のマンボウですが、体色が違うことが
見てとれます。左の写真のマンボウは体全体が銀色ですが、右の写真のマンボウは中央が黒っぽくなっています。
これはマンボウは体色を変化させることが出来る可能性があることを示しています(あくまで可能性です)。
以前、NHKのマンボウ特集の番組で海面に横たわっていたマンボウの体色が白く変化している場面がありました。これは海鳥に気づいてもらうため(体表に付いている寄生虫を食べてもらうため)のシグナルではないかという説がありましたが、このマンボウもまさに体色が変化しています。
しかし、私も数多くのマンボウに接してきましたが、
このようにマンボウが如実に色を変化させる場面に出くわした事がないのです。一体何故?マンボウのこの行動は滅多に行わない珍しい行動なのか、ある種のマンボウしか出来ない特別な行動なのか、船に揚げられて興奮、警戒もしくは衰弱して変色したのか、それとも単に私の運がなかっただけで実は頻繁に行う行動なのか・・・(頂いた写真だけでの判断なので、写っている二枚のマンボウが別の可能性もないとは言えません。)この場面だけでは判断できませんが、実に興味深い行動です。また謎が一つ増えましたね。

さて、日本周辺に出現する一般的なマンボウとの比較ですが、日本周辺に出現する一般的なマンボウは大型になると舵鰭(カジビレ)が波打つことが知られています。
さて、ジブラルタル海峡の巨大マンボウの舵鰭はというと、

少々見づらいかもしれませんが、どちらのマンボウの舵鰭もしっかり波打っています。
よってこの写真を信用して体型や舵鰭のみで判断する限りでは、
日本周辺に出現するマンボウとは同種である確率が高いと思われます。
実際には遺伝子の比較やもっとしっかりした形態比較が必要なのは言うまでもありませんが。
また私もこの現場に行く機会があれば、しっかり調べてこようと思います。

 大西洋に生息するマンボウに関しては、私の情報不足もありましてあまり詳しくありませんが、ジブラルタル海峡で漁獲されるマンボウは北大西洋海流という暖流を利用して地中海に入り込んでいると思われます。しかし、夏場には北上するというデータもあるそうで、一概にそうとも言い切れません。そして、地中海に入り込んだマンボウは地中海で生涯を過ごすのか、それとも再びジブラルタル海峡を越えて大西洋へ戻るのかもわかりません。しかし、唯一の出入り口であるこの狭いジブラルタル海峡を再び出ることが出来るマンボウは数少ないのではないでしょうか。マンボウは繁殖場所がわかっていないのですが、もしもマンボウの繁殖海域が大西洋のある海域に限られており、その場所を本能的に覚えているのであれば、ウナギのように戻ることが出来るかもしれませんが(ウナギは川と海をまたぐ降河回遊なので、ここでは単なる例です)。もしかしたら地中海で繁殖しているマンボウもいるかもしれませんね。
 しかし、
右図の海流経路を見る限りでは北大西洋に生息する一般的なマンボウは北赤道海流→メキシコ湾流→北大西洋海流そしてまた北赤道海流へ戻る、というこの環状の暖流を回遊しているのではないかと思います。ノルウェーなどの北欧の国でもマンボウの出現事例はありますが、これは死滅回遊である可能性が高いと思います。しかし、最近のマンボウの研究結果では高い遊泳能力を持っていること、そして北海道などの高緯度でも非常に多くの(しかも小型)マンボウの出現事例があることから、これまた一概に死滅回遊とも言い切れないのです。
  さて、いかがだったでしょうか?
初めての海外マンボウ特集でしたが、またしてもマンボウは様々な謎を残して去っていきました。自分で文章を書いていてマンボウに関してハッキリとこうだ!と言い切れることはほとんどありません。
特に産卵場所や回遊経路、そして何種類いるのかに関しては解明にはまだまだ時間がかかるでしょう。しかし、昔に比べればマンボウの研究者は増えており、研究も確実に前へと進んでいます。少しずつでしょうが、マンボウの謎は解けてゆくことでしょう。私も出来る限り手伝いをし、このサイトに新たな情報をアップすることで少しでも未来のマンボウ研究者の役に立てればと考えています。
 それでは皆さん最後まで読んでいただき、どもありがとうございました。お時間がありましたら、ご意見やご感想など聞かせていただけると励みになります。これからも引き続き『マンボウが旅に出る理由』をよろしくお願い致します。 (マンボウが旅に出る理由 管理人より)

大西洋の海流
(ウィキペディアより・パブリックドメイン)
※マンボウの研究関係でKubicek氏にコンタクトを取りたい方はコチラまで(英語かドイツ語でお願いします)
 Lukas Kubicek:molamondfisch@gmail.com


TOPへ マンボウ考察TOPへ